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コンプラとガバナンスの違い:AI時代に「法を守る」だけでは足りない理由


AI訴訟が急増している本当の理由

生成AIを巡る訴訟が、世界各地で急増しています。
これは一時的な流行や、特定の企業に対する反発ではありません。

米国では、ニュースメディア、作家、アーティスト、音楽出版社などが相次いで訴訟を起こし、日本でも報道機関や権利者による法的対応が始まっています。

こうした動きを見て、
「著作権を侵害しているかどうか」
「違法か合法か」
という点だけに注目してしまうと、問題の本質を見誤ります。

今、問われているのは
違反かどうかではありません。

誰が決め、誰が責任を負い、誰の声が法の場に届くのか
という、ガバナンスの問題です。


コンプライアンスとガバナンスは別物

まず整理しておきたいのは、
コンプライアンスとガバナンスは同じものではない、という点です。

コンプライアンスとは、
・既存のルールを守ること
・違反しないこと
・問題が起きた際に是正すること

を主眼に置いた考え方です。

ガバナンスとは、
・誰が意思決定するのか
・判断基準はどこにあるのか
・責任は誰に帰属するのか

を事前に設計する枠組みです。

AIを巡る問題は、
コンプラの枠内では処理できない段階に入っています。


AI×著作権は、なぜコンプラでは解けないのか

生成AIと著作権の関係で、よく使われる論点があります。
それが「公正利用(フェアユース)」です。

しかし現実には、

・どこまでが公正なのかは明確ではない
・判例はまだ出揃っていない
・判断は後出しになる可能性が高い

という状況が続いています。

つまり、
ルール自体が未確定なのです。

この状態では、
「守るべきルールを守る」という
コンプライアンス思考そのものが成立しません。

AI企業が
「違法ではない」
「公正利用に該当する」
と主張していても、

その判断を
誰が
どの基準で
いつ確定させるのか

が不明確なままです。

これは技術の問題ではなく、
統治の空白の問題です。


ガバナンスの問題として見ると何が見えるか

AIを巡る議論では、しばしば
For the greater good(より大きな善のために)
という言葉が使われます。

しかし、ここで立ち止まる必要があります。

その「greater good」とは、
誰にとっての善なのでしょうか。

イノベーションの名の下に語られる公共性や社会的利益は、
実際には、

・誰の権利を後回しにしているのか
・誰がコストやリスクを引き受けているのか
・誰が声を上げられない立場に置かれているのか

という現実と切り離せません。

さらに、あまり語られない重要な事実があります。

訴訟は、理念だけでは成り立ちません。

・弁護士費用
・長期化する時間
・人的リソース

これらを負担できる主体だけが、
法の場で争うことができます。

ここには、
巨大資本と個人・小規模組織との明確な非対称性
が存在しています。


事例から見える共通構造

Google、OpenAI、Meta。
これらの企業を巡る訴訟は、表面的には別々に見えます。

しかし構造的には共通しています。

いずれも問題の核心は、

・技術が高度すぎること
・法律が古いこと

ではありません。

誰が決定権を持ち、
誰が責任を負い、
誰の異議申し立てが制度的に通るのか

という、統治構造の問題です。

技術が進歩するスピードに対し、
意思決定と責任の所在が追いついていない。

その歪みが、
訴訟という形で表面化しているだけです。


信仰にすり替えられるガバナンス議論の危うさ

最近では、
「AI規制はアンチイノベーションだ」
「規制は反文明的だ」
といった主張も見られます。

中には、
規制を悪、無制限な技術展開を善
とする、ほとんど信仰に近い言説もあります。

しかし、この構図は危険だと思います。

規制か自由か、
善か悪か、
という二元論にすり替えた瞬間、

・誰が利益を得ているのか
・誰がリスクを引き受けているのか
・誰が法的に声を持てないのか

という現実的な問いが、消えてしまいます。

ガバナンスの問題を
道徳や信仰の問題に置き換えることは、
統治の放棄に近い行為です。


AI時代に必要なのは「信仰」ではなく「統治」

AI時代に必要なのは、
技術への信仰でも、
規制への拒否反応でもありません。

必要なのは、
具体的な責任の設計
非対称な権力構造の認識
誰のための進歩なのかを問い続ける視点
です。

法律は、
技術を止めるための道具ではありません。

法律とは、
社会の中で何を固定し、
誰に判断を委ね、
どこに責任を置くかを言語化するための制度
です。

AIを巡る問題は、
「技術 vs 権利」ではなく、
統治の問題として捉え直す必要があると考えています。

それができるかどうかが、
AI時代の法と社会の分かれ道になります。

この変革の時代を、制度理解とガバナンス構造から視点整理をしてみました。


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